ゴッホの『星月夜』 2
ゴッホはおそらく、頭上の深淵に見入っているうちに、おのれの足もとにもうひとつの深淵がうごめき始めるのを感じていたのでしょう。
この絵を描いたのとほとんど同じ頃、彼はテオにあてた手紙のなかでこんなことを述べています。
「ぼくの昔のデッサンで人物を描いたものを送ってください。
ランプの光の下で『夕食をしている百姓』のあの油絵を描きなおしてみようかと思っているのだ。
あの絵はいま真っ黒になっているだろうが、恐らく記憶で完全に描きなおせるだろう。
まだほかにもあれば、とくに『落穂拾い』と『耕す人々』を送ってもらいたい。
それから何なら、『ヌエネンの古塔』と『藁ぶきの家』も描きなおそうと思う。」
・・・ここで彼が、「夕食をしている百姓」と呼んでいる油絵は『馬鈴薯を喰う人々』を指しています。
ゴッホがサン・レミで、ヌエネン時代の作品を描きなおそうとするのは、やはり注目すべきことでしょう。
あの「深淵」のめまいからおのれを守るために、おのれの意識や記憶をさらに根底で支えているものを求めたのではないでしょうか。