ゴッホの『星月夜』 4
「ブラバンドの思い出」といっても、故郷の風景を写実的に描いているわけではありません。
『北方の思い出』という副題を付された作品が3点残されています。
そのなかのたとえば『冬の風景』という作品を見れば、思い出とゴッホの結びつきようがよくわかります。
これは、母と妹にあてた手紙で触れられている2点の作品中の前者をさすものでしょうが・・・
空も家も畑も、混沌と渦巻いていて、「思い出」という言葉から連想するような、静的なものではまったくありません。
「北方」を思い出すゴッホの眼と心とが、おのずからこのような風景を描きだしてしまうということが、いかにも興味深いのです。
いまひとつ注意をひかれるのが、ゴッホのほかの作品においては、ほとんどつねに中空にかかっていた太陽が、『北方の思い出』と題された3点においては、いずれも、まさに沈もうとしている点です。
ゴッホが、しばしば太陽とおのれとを重ねあわせていたことを思えば・・・
これは単なる「北方」を超えて、さらにその根源にある混沌のなかに沈みたいという欲求を反映していると思えなくもないのです。