崩れ落ちた自信
ある日、朝の外来診療が終わらず昼になり、トイレの帰り際に何気なしに待合室をのぞいたとき、私は愕然としたのです。
そこには知った顔ばかりがあったのです。
毎日来る顔、3日前に来た顔、1週間ぶりに見る顔。
彼らは日頃、私に「おかげさまで、だいぶよくなりました」
「痛みが楽になってきました」といっている人たちばかりなのです。
「なんだ。みんな知っている顔だ。だれも少しも治っていないじゃないか」。
ふいに背中を冷たい風が吹き抜けました。
・・・私はその晩、かつて自分が勉強した内科の教科書を取り出し開いてみました。
そこには病気の原因と治療法がたっぷりと書いてあります。
それをどれだけ頭にたたき込むかが内科医としての力量を決める。
それくらい権威があり、医学を学ぶ人たちから信頼もされているものなのです。
糖尿病はインシュリンの不足から起きると書いてある。
この薬はこの病気に使うと書いてある。
糖尿病がインシュリンの不足から起きるのは素人も知っている常識ですが、その日の私にはなぜかそれが「真っ赤な嘘」に思えてきたのです。